2022年12月8日
ISO/TC 276国内委員会
国際標準化機構（ISO）において、「細胞治療製品の製造時に使用する補助材料」に関する国際規格が発行されました。本国際規格は、日本がプロジェクトリーダーとして開発した技術仕様書「バイオテクノロジー － 細胞治療製品の製造時に使用する補助材料 － 第1部：一般要求事項」、及び、米英がそれぞれ開発した「第2部：補助材料サプライヤーに関するベストプラクティスの指針」、「第3部：補助材料ユーザーに関するベストプラクティスの指針」を統合した国際規格です。
補助材料は、細胞製造に使用され、活性物質と接触し、最終的な細胞及び遺伝子治療製品の一部を意図的に形成しない材料と定義され、試薬、培地などを含みます。本文書では、補助材料に関する供給者及び使用者双方に対する役割が、要求事項、推奨事項として規定されています。供給者に対する役割は、今後、認証制度に取り込み第三者適合性評価を実施する予定です。また、使用者に対する役割は、承認申請において規制当局への説明を円滑にするために有効と考えられます。
本国際規格が細胞治療製品の開発・製造に活用されることで、患者様に対して有効かつ安全な再生医療が提供されることが期待されます。
1．背景
これまでに細胞治療製品、遺伝子治療製品に関わる多くの規格やガイダンス文書が、安全性及び有効性を確保するため発行されています。しかし、これらの文書は間接的にしか補助材料に関連していませんでした。特に、補助材料の使用者に関わる要件は規定されているものの、供給者に対する役割を明記したものはありませんでした。この文書は、補助材料に関する課題を取り上げ、供給者と使用者に期待される事項を明確にすることを目的として開発されました。
2．規格の概要
本文書は、ヒト用の細胞治療製品および遺伝子治療製品の製造に使用される生物由来（ヒト及び動物）及び化学的起源の補助材料の一貫性および品質を改善するための、補助材料の供給者及び使用者への要求事項を規定しています。
本文書で規定している主な活動事項と責任当事者は下表の通りです。
| 活動事項 | 責任当事者 |
|---|---|
| 補助材料の特性評価試験を行い、仕様（例えば、同一性、純度、機能性、ウイルス汚染、動物起源等）を設定する。 | 供給者 |
| 補助材料が由来源関連の動物疾患に関して安全であることについて文書化された証拠を提供する。 | 供給者 |
| 補助材料のマスターファイルを作成及び提出する。 | 供給者 |
| 補助材料の安定性を評価する。 | 供給者 |
| 補助材料に影響の及ぶ可能性が非常に高いか、又は確実に影響が及ぶあらゆる変更を補助材料使用者に通知する。 | 供給者 |
| 容器及び閉鎖システムの評価を実施する | 供給者 |
| 補助材料のCoA、CoO、SDSを提供する。 | 供給者 |
| 品質及び供給に関する契約を締結する。 | 使用者/供給者 |
| ユーザー要求仕様を補助材料供給者に提供する。 | 使用者 |
| 一次スクリーニング、任意の現地監査、規定の承認、継続的モニタリング／監督等のリスクに基づく供給者適格性確認プロセスを実施する。。 | 使用者 |
| 生体適合性試験、生体内分布試験、細胞毒性試験、又は外来物質試験が必要かどうかについて判断する。 | 使用者 |
| 補助材料供給者から提供される情報に基づき、あるいは、補助材料供給者と協力することにより、例えば、故障モード影響解析等、補助材料の使用に関するリスク評価を行う。 | 使用者 |
| 代替補助材料供給者について、同様の保証と計画を確立する。 | 使用者 |
| 目的とする適用において補助材料の特性の適格性評価を行う。 | 使用者 |
| 細胞製品にとって重要なCoAの試験結果を確認する。 | 使用者 |
| 補助材料のロット間のばらつきによる最終細胞製品への影響を評価する。 | 使用者 |
| 補助材料の使用に対する適格性評価計画を確立し実施する。 | 使用者 |
3．期待される効果
再生医療には、多くのステークホルダーが関わり、標準はそれらの間のコミュニケーションを円滑にする効果があります。本文書は、細胞製造の補助材料の供給者、使用者双方の役割を明確にすることで取引の円滑化に繋がるとともに、使用者は自身の役割を満たすことで規制当局への承認申請において説明が円滑になると期待されます。その結果、患者様への有効かつ安全な再生医療の迅速な提供を促進します。
4．文書の入手
国際規格は有料出版物として販売されております。必要な場合、下記ISOのホームページから購入が可能です。
https://www.iso.org/standard/79399.html?browse=tc
以上